わたしの好きなシーン

「乳と蜜の流れるところ」を読んでいただきありがとうございます。 

当初書きためていたストックがついに切れてしまったこともあり、現在必死になって書きためております。 

「どうしてこうなった」と西条さんと口々に言い合いながら、先の展開を細かく決めつつ「現在」を書き進めていたころがもう懐かしい← 

追憶・乳蜜ともに11日よりお休みを頂戴している間、どーしたものかなーと思っていたら

「これまでのシーンの振り返り的な感じで、個人的に好きな乳蜜のシーンをいろいろ書いてニュース的ななにかを出そうとおもってます」 

と西条さんから声を掛けていただき、「おおおおおお、じゃあわたしも乗った!」ということで追憶でわたしが好きなシーンを記そうと思います。


※明らかなるダイレクトマーケティングです。是非、乳蜜の舞台裏を読んでほしい♡ 


➀結衣子、脱ぐ

「おいちょっと待て! なんで脱ぐんだよ!」
「あら、服を着てたら縄の感触がわからないじゃない」
「だからってステージ《ここ》で脱ぐのかよ! つーか、あれ! あいつはいいのか?」
 慌てた様子で彼が指差した先には、平然とした様子で姿勢よく立つ稜がいる。その奥に、興味深そうにこちらをチラチラと見る観客も数人いた。
 結衣子は着々とボタンを外しながら、思い出したように「ああ、」とこぼして続けた。
「ご心配には及ばないわ。彼、私の夫なの」
「は? 夫? 夫ならなおさら……」
 唖然とする渡海に笑いかけ、ワンピースを肩から落とす。輪になったそこから跳ねるように脱すれば、あとはもう下着の上下と、ガーターベルトに繋がれた薄い黒のストッキングだけだ。
 背のホックに片手をやって弾く。支えを失ったやわな肉がこぼれ、少しの恥じらいに頬がほどけた。
 その顔のまま、結衣子は稜に向かって、薄桃色のレースに彩られたブラジャーを摘んだ手をひらりとさせる。すると稜も微笑んで手を振り返してきた。
 好きにしろということだ。指を開いてそれを床に落とし、得意げな顔で渡海を振り仰ぐ。 

わたしは結衣子がとても好きです。 

のちのち彼女の過去が明らかになるのですが、この行動力と度胸の背景を知っているだけに、彼女の探求者としての純粋さをこのシーンで感じました。

「さすゆい!」と思わず叫んでしまったシーンのひとつ。 


➁お仕置きタイム

 ふいに伸びてきた手が、結衣子の腰を捕らえた。 
「脱いで」
 端的に命じられ、結衣子は口をぽかんと開けた直後、聞き返す。
「脱い……っ、ええ?」
「渡海さんの前ではあっさり脱いだくせに」
「え、や、ちょっと――」
 胸元を掻き抱こうとする間に、稜の手は結衣子の手首を掴んだ。 

これは渡海に縛られたあとの話。 

ステージに乗り込むまえに「感じたらお仕置きだ」と稜に言われた結衣子。

 渡海に縛られた際、責め縄の一端に触れてしまい彼女の中にある被虐の悦を感じたのを、稜くんはしっかり見抜いていた、からのーこれ。 

このあとの展開は、すごい。露骨な描写はなく、でも結衣子が抱いている欲望がよく分かる描写が続きます。これは彼女だから書けたシーン。 共有している原稿を読んで圧倒されつつぞくぞくしたのを覚えています。 


➂瑛二、ざっくり言う

「そ。うちはこの倍以上あるから全部あげる。ケイン、パドル、バラ鞭、マスクは全頭とハーフと両方、各種ドレスに、チューブシース付きのアンダーウェア」 
「チューブシース……?」
 商品名をずらずらと述べた結衣子に、遥香が首を傾げて尋ねた。結衣子が現物を見せようとしたのか、山の中をまさぐり始める。
「ええっとね、男性用の下着なんだけど……」
「ちんこ袋付きのぴちぴちパンツって言やいいじゃねえか」
 ぶっきらぼうに瑛二が言った瞬間、二人は顔を汚物でも見るかのように歪ませて瑛二を見た。 

瑛二なら言う、絶対言う。と西条さんと頷きあったセリフ。 

このストレートな物言いと裏腹に、彼はとても繊細。女王のレッスン・縄痕にくちづけをを読んで、結衣子・稜・遥香・瑛二、誰が一番好きかって聞かれたら結衣子か瑛二で悩むくらい、わたしは彼も好きなんです。 

渡海は理性で押さえ込むタイプですが、瑛二はそんなことしません、ええ。

この後の会話も実に楽しかったですし、この場面以降瑛二が遥香を大事に思っているセリフなどが続きます。 


④女王サマ、ついに聞く

「……稜くんに私を託した時、どんな気持ちでいた?」
 瑛二は今度こそあんぐりと口を開けた。
 なぜ今さら、とも、なぜこんな時に、とも思い、苦しまぎれにまた舌を鳴らす。すると結衣子が慌てたように、「わかってる」と言って続けた。 
「変なこと聞いてるのは十分承知してるから」
「当たり前だろ、わかってなかったら張り倒すところだぞ」
「それでも聞かなきゃいけないの。私はなぜここに立ってるのか、きちんと知っておかないといけないのよ」 

女王のレッスン、縄痕にくちづけをを何度読み返したか分からない。 不可侵の三角関係を続けていた結衣子に決断のときが訪れたんですが、そこまで引っ張ったのは瑛二くんでした。 

その幕引きの仕方がとても彼らしく印象に残っています。が、瑛二くん視点でそのあたりのことが書かれてないはず・・・(多分

思いがけずここでその頃の彼の様子を知ることができて、吐血しました。

この下りのあと、切ないです。ずっと続いていた関係を断ち切るってこういうつらさを伴うよねえと、マジで切なくなりました。男性のやせ我慢、好きです、大好きです。

ベルリンでのステージを見て「ドラマの最終回」と評した結衣子。どうして渡海一人で幕引きをしたのか、そう思いいたった理由を知りたくて、自分達の関係を清算するきっかけを作った瑛二に聞くわけです。 「え、それ聞く?」と眉をひそめてしまいそうなセリフです。が、精算をすませた二人だからこそ、交わせることができた会話だろうと感じました。 


➄渡海、女難に遭う

「ねえねえ渡海さん、どんなステージされるんですかぁ?」
「えっ? どん――」
「お写真ないんですかぁ?」
「しゃし――」
「彼女さんも縛っちゃったり?」
「はぁ!?」
「あっ、結衣子さん縛ってみるといいですよ。めーっちゃくちゃドキドキするから!」
「……っ!」
「ちょっとちょっと、みんなそんな畳み掛けないであげて。渡海くんが答える暇もないじゃない」
「渡海“くん”!?」
「渡海くんだって! えーっ、えーっ、結衣子さんもうそんな仲良し!? いいなぁっ」
「もぉ! 余計な茶々を入れないの!」 

仲秋先生に連れられて、渡海が8Knotへ初めて行ったときの一場面。 

これは原稿をよんだとき、吹きました。大事なことですので二度いいますが、吹きました。 

ここは当初なかったシーンだったんですが、わたしが「質問攻めに遭い」と乳蜜に書いたことで、西条さんがピンときて、これになった、と。 

ええ、もうありありと頭に浮かびました、渡海が怯んでいる姿が(笑) 


➅説教タイム

「瑛二くんだけ? 遥香ちゃんは――」
「お前。とりあえずそこ座れ」
 質問を遮って有無を言わさぬ険しい視線を向け、正面の床に顎をしゃくる。
 結衣子は一瞬怯んだようにひくんと身体を震わせ、気まずそうに目を泳がせた。 

瑛二視点での説教タイム・・・。

「瑛二と結衣子の視点が入り混じってて、(読者さん)混乱しないかな」と西条さんから相談されました。が、視点が切り替わっていることが分かるように書けば問題はない、とわたしは思ったので、そのままお伝えしました。

今回のプロジェクトは、結衣子だけでは進みません。瑛二の協力が不可欠なのです。 

稜では駄目なのか、と思った方もいるんじゃないかと思いますが、女王・縄痕を読んだ方なら、その理由は分かっていると思います。 

瑛二くんは結衣子を育てた人です。そして対等に言い合える仲間であり戦友です。稜より結衣子の本質を知っていますし、だから言えることがある。とわたしは思っています。 


⑩ルイ、タコと言われる

「お前がそうなったのもなんかわかるわ。思ったようになる感じがすっげぇ。なんだルゥ、お前タコかなんかか?」
 振り向きざまに瑠衣を見ると、彼女はぽかんと口を開け、何を言われたかわかっていない様子で瑛二を振り仰ぐ。
 しん、とした沈黙がおりた。険しい顔の渡海、白い目の三人の視線を感じたが、それを真っ先に破ったのは、意外にも仲秋の快活な笑い声だった。
「わっはっは! タコとは瑛二くん、面白いたとえをするね……、ルイがタコ……ははっ、散々な言われようだなぁ、ええ? ルイ」
 スツールの上で仰け反ったかと思えば腹を抱え、忙しく身体を揺する仲秋に、観客四人は呆気にとられている。そのさなか、瑠衣がやっと声を出した。
「タ……、コ、です、か……」
 頬を引き攣らせ、それでもかろうじて笑おうとする。律儀な女だと思いつつ、瑛二は留めたばかりの縄をほどき始めた。
「いや、お前いい受け手だな。正直頼りなさそうだと思っていたから驚いたよ。こうしたい、ってやったらほとんど思い通りになりそうだ。が、なんつーか、なぁ……、くにゃっくにゃすぎっつーか……、あー、……タコだ」

西条さんのツイートにもありましたが、 

「ごめん谷崎さん、瑛二が瑠衣のことタコって言い出した」 

「ふぁっ?」

「でもって○○○って」 

この通りです、マジでw  

どうしてそうなったかその理由を聞いたら「まあ瑛二くんだもんなあ」で解決しました。


 ⑯女王サマ、縄読みを説く 

「そ。でも縄を読むのは……、説明なんてできないわ。伝わってくるものがあるとしか言いようがないの。それをなんとか言語化してるだけ」
 そのきっかけも、やはり瑛二の縄だった。
 肌に触れた縄から体内に流れ込んでくる、とろりとしたなにか。それが言葉になってこぼしたら、瑛二はただただ驚いた。
 以来、ほかの緊縛師の縄も気になるようになった。仲秋などは最たる例だ。
 そんなことを思っていると、渡海がさらに尋ねてきた。
「……先生のも?」 
 「もちろん」 
 「どうだったんだ?」
 こちらを見ようとしないままの渡海に、結衣子はあえて顔を向け、唇の前に人差し指を立てる。
「個人情報につき、ご本人とその師匠にしか教えられないの」

女王ファンにとって、結衣子の縄読みはおなじみですよね。 それを渡海に説明しているシーンは、感覚的なことをよくここまで書いたなあと思わせられたほど良かったです。 

結衣子、瑛二、稜、遥香にはそれぞれ信条があります。それを念頭において女王シリーズを通して読むと、その信条がキャラクターに深みを与えているんだなあと気づきました。 

何せ緊縛が絡んだお話です。その信条がキャラクターのベースに深く関わっている。特に遥香の信条は、そこに至った過程を女王で読むと、なるほど、と納得できると思います。



今回改めて読み返したら、好きなシーンばかりで困りました(ピックアップしたら32個あったんだぜ・・・) 

その中でも特に印象に残ったものだけを、追憶の本文を引用してご紹介させていただきました。 

乗り越えた男女が乗り越えようとしている男女に関わる。 結衣子と瑛二がたどってきた過程を知れば知るほど、乳蜜では敵キャラのようになっている二人の思いが分かると思います。 

16日から再開する新章でも、また山場が続きますが、できることならそれぞれの作品をお読みいただきたいな、と思います。 


 感想も随時お待ちしております♡ 

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