わたしの好きなシーン

「追憶と未来の交わる場所で」 

日頃よりお楽しみいただきありがとうございます。 

物語も進んだところで、お休み期間になりました。

 せっかくなので、これまでに公開した部分から、「乳と蜜の流れるところ」より、私の好きなシーンを発表しようと思います。 

はい、あえての乳蜜です。気になったら読みに行ってくださいというダイレクトマーケティングってやつです。 


①渡海くんは女王様と邂逅を果たす

  不意をつかれ、渡海は言葉を失った。
 ぼう然となりながら、相手から言われた言葉を頭の中で反芻したが、何度確かめてみても自分を縛ってほしいということで間違いない。しかし――。 
「申し訳ないが、俺は一般人は縛らないことにしているんだ」
 正確に言えば違うが、そういうことにしていた。渡海はあえて無愛想に返事する。
「あなたの言う『一般人』の定義がなにかわからないけど、私のことなら気にしないでちょうだい」
「あんたが気にしなくても、俺がいやなんだ」


渡海くんの人間性がとてもよく見えるシーンだと思うのですよ、ここ。

律儀、硬質、こだわりが強くて、自身の殻から出ない。それでいて緊縛師としての矜持も窺える。 

今でこそ私も渡海くんを動かしたりしてますが、この時はまだ「結衣子がこう言ってこうすると、渡海くんはどうする?」という感じでやっておりました。 

そういう意味でも、言動のひとつひとつから彼を捉えようと思っていました。そんなことも思い出しつつ。 


②酔っぱらいは観覧車に乗らないほうがいい  

 そして今、恋人はワインを飲みながら外の景色を眺めている。
 酔っ払った姿を見たのは二度目だが、明らかに以前と異なっていた。その上キス魔になる気配がない。当てが外れたような気分で歩を眺めていると、マグカップを持ったまま座っていた椅子に膝をついて窓の外を見始めた。
「とかいさーん、ねー、あれはなにー?」
 窓に顔がくっつきそうなほど近づけて、歩が問いかける。
 やれやれと内心で言いながら、歩の背後に回って窓の外を見てみるが、目立つ建物は見当たらない。  渡海は、さりげなく恋人の体を支えながら返事する。
「なにって、なんもないぞ?」
「えー?」 

酔っぱらい歩と観覧車でいちゃいちゃする渡海くん。 

あんなことがあったあとだからねぇ、いろいろ打ち明けたあとだしねぇ、そりゃあもう癒やされたいよねぇ、かわいいかわいいもううう! ってなってました。

結衣子と絡むと渡海くんはずうっと険しい顔してますから、なおさら楽しかった。 ほんとこの二人かわいい。癒やされる。 


③渡海くん、ノットガールズに囲まれる

  場を仕切るように彼女が手を叩くと、それまで仲秋に注がれていた目が、自分に向けられた。
――げ!
 渡海は顔をぎょっとさせた。思わず声を漏らしそうになったけれど、すんでの所で押しとどめる。
 歩より若い女性たちから一斉に視線を注がれて、いたたまれない気分になる。すると、仲秋の隣にいたキャストが、仲秋にかわいらしい笑みを向けて問いかけた。
「仲秋せんせ、ご紹介お願いしまぁす!」
 仲秋は、こほんとせき払いをしたあと弟子に笑みを向ける。
「渡海真幸。私の弟子で緊縛師だ」
 仲秋が渡海を紹介すると、その場にいたキャスト達がわっと沸いた。
「マサキ、ほら」
 ぼう然としていると肘で小突かれた。
 渡海は焦っているのを見せないように表情を引き締める。 
「……渡海です。よろしく」
 ぶっきらぼうに挨拶したあと、渡海はわずかに頭を下げた。
 その直後、集まった女性達は声を揃え挨拶する。
「渡海さん! よろしくおねがいしまぁーす!」
 黄色い声に慣れていないこともあり、渡海は面食らった。
 こんなことなら、光の店だけでなく女性たちがいる店に出入りしておけばよかったと思っても今更だ。 

こんなことなら、光の店だけでなく女性たちがいる店に出入りしておけばよかったと思っても今更だ。 

太字にしちゃったよ。

8 Knotのキャストにきゃあきゃあと囲まれた渡海くんがひとりごちた、最後のこれ。 

初見時吹きました。今でも吹く。「真面目か!」って全私が総ツッコミしました。 

半ば手前味噌なシーンでもあり恐縮ですが、ノットの雰囲気や先生を慕うキャストの面々の印象を乳蜜側にも入れておきたくて。それがなんとも楽しいものになって返ってきましたねー。 


④雁字搦めの渡海くん

 目線を上げると、鏡に映った自分の姿に目が留まった。
 縄でしっかり縛られている姿がルイへの未練で雁字搦めになっていた頃の自分に見えてしまい、渡海は顔を歪ませる。
 ふいに感じた視線をたどると、鏡に映っている結衣子から見つめられていた。
「縄はね、救いであってほしいの」
 正面に来た結衣子が、目の前で膝をつく。
「できることなら、緊縛師であるあなたも、縄によって救われてほしいって思う。もちろんこれは、私のわがままなのだけどね」
 向けられた笑みはとても穏やかなものだった。
 頬に温かいものが触れる。ほのかに湿り気がある甘い匂いがした。
 その匂いを嗅いだ途端未練に囚われていた頃の胸の痛みが和らいだ気がして、渡海は顔を近づける。近づけば近づくほどその匂いは甘く香り、胸の痛みを忘れさせてくれた。

 abyss 9で仲秋先生に問い詰められる渡海くん、から、その後縛られるまで全部好きなんですけど、抜粋するならここ。 

未練で雁字搦め。そして今も彼は、どうしたらいいのかわからずにいる。本当は救われたい。でもそれすら遠ざけようとする。散々な目にあって苦悩続きです。 が、そこがいい← 

苦悩する人間が大好きなもので、ここはいっぱい苦しんでって思う。なんなら今も。 


⑤カメラが気になる渡海くん 

「興味ある?」
 瑛二は、特に表情も変えずカメラを持ち上げた。
 渡海は一瞬迷ったが、頷いたあと瑛二の側に近づいて腰を下ろす。
「昔やってた。と言っても、アシスタントでやめたけど」
 仕事を辞めたのは、ルイと別れた直後だった。
 現場に出れば、彼女と顔を合わせることになる。そうしたら、彼女を傷つけたことや、嫉妬で苦しんでいたことを否が応でも思い出してしまう。それから逃げたかったからだった。
 その頃のことを振り返っていると、目が勝手にカメラに向いた。
「ふうん」
 仕事を辞めたときから、カメラには触れていない。
 触れたらきっと、ファインダー越しに目にした彼女の姿を思い出しては、後悔に苛まれるだろうから。
 ルイへの未練や後悔を断ち切るつもりで辞めただけで、カメラには何の罪もない。あれから四年の月日が経った今、ようやくそう思えるようになった気がした。
~中略~
 ルイの様子が気になり見てみると、彼女は今にもため息をつきそうな表情を浮かべている。短時間のうちに、縛り手を変えて何度も縛られているから疲れているのは分かっている。今度こそ最後にしてほしいと心の中で願いつつカメラを構えると、レンズ越しにルイと目が合った。
 彼女は驚いた顔をしていたが、すぐに嬉しそうな顔になる。その表情は、初めて彼女を撮ったときと何一つ変わっていなかった。
 カメラに触れる指にも彼女に向ける目にも、あの頃の記憶が残っているのかもしれない。懐かしさに意識が引っ張られそうになったけれど、渡海は「今」のルイを撮ることに集中し始める。
 無心になって彼女の表情を追いかけていると、ルイに変化があらわれた。

ここは当初予定になく、私が先行して書いていた時によぎったのです。 

ルカが瑠衣を縛る。そしたら瑛二は写真撮る。となると、前にカメラをやってた渡海くんは? もしかしたら興味持つんじゃないの? と。 

すぐさま谷崎さんにご相談しました。したら、予想通り、「気になるだろうね」と。 

そこから谷崎さんも渡海くんも見事に応えてくださった。彼の心の奥と瑠衣への思いが窺える、とてもいいシーンです。 


⑥瑠衣の涙に渡海くんは

「わたしがどれだけ悔しかったか、あんた、まだわかんないの? あれだけ言われて悔しかったし負けたくなかったからずっと考えた! どうしたらわたしとあんたを認めさせることができるか、ずっと……」
 ルイが急に語気を強くした。慌てて辺りを見渡してみると、道行く人びとから不躾な視線を向けられている。このままではまずいと思いながらも、どうしたらルイを落ち着かせることができるか渡海は必死になって考えた。
「マサキ。わたしって、そんなに頼りない?」
「えっ?」
 今度は打って変わって弱々しい声だった。
 不安になって急いで振り返ると、ルイは今にも泣き出しそうな顔をしている。目には涙が溜まっていた。
「相棒が困り果てていたら、力になりたいって思うもんでしょうよ。どうしてあんたはいつも一人で抱えちゃうわけ? わ、わたしの気持ちを無視、しないでよ……」

 ノットからの帰り道。銀座の街中で瑠衣が問い詰める。 

ここで瑠衣との意識の差異が顕著になる。ここはもう谷崎さんの腕の見せどころでしたね。渡海くんはまだまだ頑なで、瑠衣はめきっと芯を燃やして。 

そしてこのシーンの最後の最後ですよ。「これで全部だ」 

我々の原稿、Googleドライブに共有して、それぞれ気になったことや補足事項をコメントするスタイルをとっているのですが、もうすぐさまそこで叫びましたね。「うそつきーーーー!!!」と。 

(画像提供:谷崎文音)

これを見た瞬間吹いた!(谷崎)



挙げたらきりがないのでこのへんで。 

どんなだったけー、と、ぜひぜひ読みにいってください! 

感想も随時お待ちしております! 


あんけーと

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ましゅまろ

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