わたしが好きなシーン(自萌え
昨日(6/3)と今日(6/4)、ネトフリで鬼滅の刃(アニメ)を見て、電子書籍を買おうかマジで悩んでいる谷崎です。
※6/4の夫婦間協議で電子書籍を購入することが決定(夫氏のお小遣い&へそくり)
もし買いそろえたら、ブリーチ、ナルトとアニメを見てコミック揃えた以来となります、はい。
と、雑談はここまでに、早速自萌えにはいりましょう。
➀待つ身
「今日わたしを縛ったとき、何を考えてた?」
渡海は縄を扱く手を止めて、ルイを縛っていたときのことを振り返った。
「ここに通ってたとき、先生から指摘を受けたことをひとつひとつ思い出しながらやってた」
「それで何か気づいたことがあった?」
「気づいたこともピンとくるものもなかった。また一からやり直しだ」
仲秋から指摘を受けたところを何度も繰り返している間に、技術は体や手に染みついたけれど、そこに心や信条が込められていなければ、ただ縛っているにすぎない。
『縄で誰かを縛るだけなら誰だってできる。でも、それだけではないのが緊縛師だ。レディ結衣子は迅と向き合っていたとき、果たして夫である稜のことを考えていただろうか? 答えは否だ。向き合った相手を受け止めることしか考えていない。それが、縛り手として相手に向き合うことだと思っているからだ。お前はお前の縄で受け手を縛って、どう向き合いたいのかを真剣に考えろ』
結衣子のステージを見た際、仲秋から言われた言葉が頭に浮かんだ。それと同時に、その言葉が急に重さを増した気がした。
「一からやり直しってことは、先生がやって見せた手順のままに縛るってことよね」
「手順?」
「そうよ。先生は必ずわたしを先に縛ってあんたに見せていたでしょ。指摘を受けた部分も含めて、そのときのことを思い出してみたらどうかしら」
指摘を受けたところだけ思い出していたから、ルイが言う手順のことは頭から抜けていた。それに気づいたけれど、もう稽古の時間は終わっている。明日にでも試してみようと思い直し、渡海は「そうしてみるよ」と言ったあと縄の片付けを再開した。
仲秋邸でもルイは渡海にそれとなく伝えているんですよね。向き合うことについて。
彼女は、向き合うことの先(信条)については、渡海が見つけるまで待たなければなりませんが、何もしないでいられなかったわけです。
余談ですが、ルイが気づいたのは康孝の影響が強いのですが、そのくだりはいつか蛇にてちゃんと書きたいと思います。
➁言ったことが返ってきた
了承を得て、歩を和室に連れて行くと、いきなり服を脱ぎだした。
「あっ、歩?」
渡海はぎょっと目を剥いた。しかし、恋人は手早く着ていたシャツとワイドパンツを取り払い、下着だけの姿になっていた。
「な、何、脱いでんだ?」
おどおどしながら尋ねると、恋人から平然とした顔を向けられた。
「だって、脱がなきゃわかんないでしょ」
「何を?」
「あんたが言う縄の味。だから脱いでるのよ」
渡海は目が点になった。
そういえば、歩を初めて縛ろうとしたとき、そんなことを言った気がする。その言葉がまさかこんな形で返ってくるとは思っておらず、渡海はいよいよ困り果てた。
渡海の動揺を気にもせず、歩はブラやショーツを脱いだ。きれいにたたみ終えると、顔を赤くさせている渡海に背中を向けて腰を下ろす。
「教えて。分かるかどうか分からないけれど、精一杯感じるから」
気まずそうに目線をさまよわせていると、凜とした声が耳に入った。視線を歩に向けると、白い背中が見えた。
あのときは、縛る覚悟がどういうものか分かっていなかった。
それなのに、いっぱしの緊縛師を気取って、縛られる覚悟を見せろと言ったことが恥ずかしくなった。
彼女はあのときも今も、自分に背中を預けている。その信頼に応えなければ。そう思ったら、気持ちが引き締まった。
渡海は膝をつき、背後から歩を抱き締める。
「縄の味」も「縛られる覚悟」も、渡海が歩に言ったこと。それがそのまんま渡海自身に返ってきた、と。イヴのめざめで歩に言った言葉には、実が伴っていなかったということです、はい。
渡海に縛られるまで、歩は歩なりに悩んで決めてドアをノックして、言い合いになって全裸になったというね・・・。
このシーン書きながら、お前さんが言ったものそのまま返されてるじゃないかwと言ってました、まる。
➂とんだ災難
「申し開きがあるなら二言三言は聞いてあげる」
結衣子から見せられたスマホの画面に映っているものを見て、渡海は声を失った。
そこには、昨日空にした酒の空き瓶とともに、正座になって頭を垂れている瑛二が映っていたからだ。
思わず結衣子に目をやると蔑むようなまなざしを向けられていた。それを見た途端、背中に冷水を浴びせられたような気がしてならず、渡海は顔を引きつらせる。
何があったかは分からないけれど、非常にまずい状況だということは分かった。
結衣子の視線に耐えきれず、渡海は声を詰まらせる。が、どうにか声を振り絞った。
「え、瑛二が勝手に酒をついできたんだよ!」
言い訳しているような気分だったが、事実は事実だ。
稜に同意を促そうとして目線を向けるが、あっさり逸らされてしまい、いよいよ気まずくなってきた。だが、威勢良く言い放ってしまったからには、もう後には引けない。
今にも消え入りそうな気力を振り絞り、苦々しい表情を作って結衣子に向けると、恨みがましそうな顔を向けられた。
「アナグラの開店記念……三年瓶熟したってやつをくださったのよ……。最初のひと口飲んで、しばらくおいてからの変化が楽しみなのに……」
「そ、そんなこと言われても知らねえよ」
「知らないじゃないわ! 飲んだ時点で同罪よ! っていうかむしろあなたのせいなんだから!」
「なんだそれ!? 俺は注がれたから飲んだだけだ!」
言いがかりをつけられているようなものだ。当然腹が立つ。
結衣子の気迫に押されそうになりながらも、渡海は足を踏ん張って応戦した。
すると、結衣子の顔が悔しそうなものへと変わる。
「美味しかった?」
「あ、ああ……」
言い返されると思っていたのに、唐突に酒の味を聞かれたものだから、渡海は面食らった。
結衣子から向けられる鋭い目を見返しながら曖昧な言葉で答えると、今度は急に言い捨てられた。
「あっそう」
ぷいっと背中を向けるなり、結衣子はスタスタとバックルームに向かう。離れていく背中を眺めながら渡海はどうしたらいいのか分からず困り果てた。
まあ、突き詰めると渡海のせいで間違いないんですが、ねえw
瑛二が稜の制止を振り切って「この店の主は俺だ!」といってレアカスク開けなければ・・・(自主規制
➃いろいろの意味
「素敵じゃない。楽しい?」
結衣子はそのままボディチェックを始めたようだった。
肩から腕から背中から念入りに触れている。
「ああ。水を入れたペットボトルだの使ってやってるんだ。一緒にやると、怠けられねえ」
一瞬でも怠けると、歩は本気で怒る。
機嫌が直るまで、いろいろと不都合なことが生じるから手を抜くことができなかった。
まるでかかあ天下だ。歩を中心に生活している気にもなるが、それはそれで悪くない。というより、そういう暮らしがすっかり板についてきたことに気づき、渡海は急に居心地が悪くなった。
しかし、そんなことを露程も知らない結衣子は、さりげなく探りを入れてきた。
渡海と歩の同棲もこのときには二か月が過ぎようとしています。
のちのちイヴでしっかり書きますが、歩は渡海と違って敏感。彼が何かに思い悩んでいることに気づき、様子を見ていたところでした。その原因が何であるか彼女は知りません。でも、縄が絡んでいることは分かっています。
力になりたいけれど、彼女は渡海が立っている世界を良く知らないから何もできなかった。でも、ルイに指摘され渡海が体を鍛え始めた時、やっと出番が回ってきます。
➄レオンのカムバック
「今日ね、レオンたちと偶然銀座で会ったの。それで夕方までここでお茶したり縄したりしてたのよ」
――え?
いきなりレオンの話をされたことにも驚いたが、それよりもっと驚いたのは、レオンたちがここで結衣子と過ごしていたことだ。
仲秋の自宅で鉢合わせたレオンは、ケヴィンとメリーナとともに、件の緊縛師と打ち合わせをすると言って出掛けていった。
その際、夕方には戻ると言っていたけれど、稽古が終わる日暮れの頃になっても戻らず、大方観光でもしていると思っていた。
だが、まさか結衣子と一緒にいたとは、誰が想像できるだろう。
急に言いようのない不安が襲いかかり、渡海は怪訝な顔で振り返った。
「レオンと?」
しかし結衣子は渡海に目を向けることなく、縄を扱いている。
「そう。でね、もしも渡海くんがステージできないようだったら、代わりにやってってお願いしたの」
渡海は目を見開いた。
「カムバックの舞台がここなんて、先生との縁をますます感じるって、快諾してくれたわ」
今、結衣子はなんと言った?
レオンがカムバック?
全くの初耳だった。
「レオンがステージに戻る?」
兄弟子がどうして舞台を降りたのか分かっているだけに、思いがけず結衣子から聞かされた話は驚きが先に立った。結衣子的には挑発のつもりだったんだろうけれど、渡海としてはその挑発のために敬愛する兄弟子を持ち出されたことが気に入らない、というちょっと感情がすれ違っているワンシーン。
当初、挑発にのってしまう渡海くんを書こうとしたんですが、彼の性格上まず兄弟子の再起を喜ぶだろうし、自分を挑発させるために兄弟子を利用したことが許せいだろう。同時に、兄弟子を使われた原因が自分の不甲斐なさからだと思い至り悔しかった。と。
ちょっと描写不足だったなー、うん・・・。
➅糸口
「二人とも、信条通りだったでしょう」
「ああ、その通りだった」
余計なことは言うまい。
それで墓穴を掘ってしまった経験があるだけに、渡海は簡素な言葉で返すに留めた。
結衣子の信条は「心酔させる」だ。その中には、迅のゆりかごのように母性でもって心服させることも含まれているのかもしれない。
瑛二や稜、結衣子が持つ信条を言葉通りに受け止めると、どうしたってそれぞれが抱える癖に繋がっているように思える。しかし、実際縄を受けてみるとその信条に含まれる意味の深さに気づかされた。
瑛二や稜と腹を割って話したことで、そのときまで物事の上っ面しか見ていなかったことを思い知らされた。そのときのことを振り返りながら渡海は息を吐く。
「瑛二たちと話してやっとわかったよ。あんたが俺に何を求めているか」
余計なことを言って墓穴を掘ったのは、言わずもがな男縄会。学習しましたw
癖と直結している信条ですが、そこに含まれるものは意外と深いし大きい。それに気づいたことで、彼の殻が完全に消えた瞬間。
➆おおっとおおw
渡海は床に膝をつき、結衣子を背後から抱き締めた。
「縛るぞ」
置いてあった縄を手に取り、結衣子の両腕を背中に回す。
細い腕を重ね、縄を掛けようとしたときだった。
「稜くん」
結衣子が稜に呼び掛けた。縄を手繰る手が勝手にピタリと止まる。
「レアカスクの味、どんなだった?」
ここ、実はすんなり縛られるシーンだったんですが、結衣子女王様が暴れました←
西条さんが先行して書いていた原稿を読みながら、あー、また動いたのね、結衣子おおお・・・と思ったことは言うまでもありません。
彼女の言動は予測不可能。西条さんでさえ困り果てるほど、結衣子は動き回ります。
しかし、西条さんは結衣子がどう動いても余計な文字数を使うことなく予め決めていた着地点に向かわせてました。
パッと閃いたエピを書いたあと、大体のケースは余計な文字数使って軌道修正するんですが、西条さんの軸がしっかりしているから迷子になることも迂回することもなく、最初からそうであったかのように話が進む。
これはすげーと思いましたね。今回、西条さんとがっぷり四つで組んで学んだことがとても多かったです。
⑧渡海、おもちゃと化す
「そうね。でも、ここまで来ただけでも上々だわ」
満足げな彼女の笑みを見てほっとしたが、あることに気づき渡海はさっと目をそらした。
「つか。そろそろ服着てくれ……」
彼女の裸体が視界に入り、非常に気まずい気分だった。
しかし、思いも寄らない言葉が耳に入る。
「あら、ベルリンでもこうだったじゃない。気になる?」
「気になって当たり前だろ!!」
思わず結衣子へ目線を向けて言い放つと、彼女は裸体を見せつけるように腰に手を添えて膝立ちになっている。
豊満な乳房に目が行きそうになったけれど、渡海は顔をしかめさせ視線をさまよわせた。
「ちゃんとTバック穿いてるのにぃ……」
嫌な予感がして再び目をやると、あろうことか結衣子はTバックのサイドにある紐をピーンと伸ばしていた。
そのまま引っ張れば、股間を覆うものが落ちてしまう。放っておけば、何をしでかすか分からない相手だけに対応に困る。いても立ってもいられなくなり、渡海は勢いよく言い放った。
「やめろ、ほどくな!! おい! 稜! 止めろ! こいつを止めろ!」
慌てふためきながら稜に助けを求めたけれど、稜は手で口を覆ったままだった。
良く見ると、肩を揺らしている。
「ごめんね渡海さん、俺面白い時は放っておく主義なんだ」
稜はそう言うと、くくっと笑いを堪えた。
それを目にして、見放されたような気がしたのは言うまでもない。
渡海は顔を真っ赤にしながらぼう然となる。
「面白い、って……」
傍観者である稜にしてみれば面白いだろうが、当事者である自分にとっては……。
「俺はちっとも面白くねえ!」
渡海は肩を揺らしている稜と裸のまま膝立ちになっている結衣子に向かい、体を震わせながら言い放った。
これもまた災難としか・・・。これでこそ渡海・・・w
➈話を聞くだけでも・・・
「話を聞くだけでもいいってお母さんは言ってた」
「え?」
「お母さんに相談したのよ。どうしたらいい? って。そうしたら、誰かに話すだけでも不安が軽くなるものだから、ちょっとだけつきあってやんなさいって」
これもイヴで語るべきことなんですが、歩と彼女の母親は母親と娘というには距離があるんです。その理由は母親が女将だから。イヴで触れているんですが、歩と綾は彼女たちの祖母に育てられています。(母親が女将で多忙だから)
それに綾と弟が生まれたことで、歩は母親に甘える時間がほぼほぼなかった。(ええ、弟がいるんですよ!)これが歩という人間のベースとなっている要素のひとつ。
綾の結婚式で母親と親しげな会話をしているんですが、まだまだ心の距離は離れたまま。ですが、綾がしょっちゅう電話を掛けてくる理由が分からず困り果てた末に母親に電話したことで、距離が縮まるというね・・・。
んで、母親から聞かされた言葉が、仲秋邸で聞いた稜の言葉に繋がり、渡海はようやく「分かる」わけです。
誰を「気づかせる存在」にするかかなり悩みましたが、歩で良かったと思います。
⑩緊縛師の女房
「俺の、緊縛師の女房になってくれるか?」
仲秋とその妻のことが頭に浮かんだけれど、師は縛ることがどういったものかちゃんと説明していないのだろう。
しかし、それを説明した上でそれでもいいと側にいてくれる相手がいたら、これほど心強いものはない。
返事を待っていると、歩の目が潤み始めた。
「あんたが必ずわたしの所に戻ってきてくれるならいいわ」
「当たり前だ。お前んとこに一番に戻るって言ったじゃねえか」
渡海は腕を伸ばし、歩を抱き寄せた。
どんな相手を愛して縛っても、帰る場所はたった一つ。それを形にして、相手が安心するのなら言葉にして伝えたい。
「歩、愛してる」
胸に押しつけた歩の頭を撫でながら告げると、よほど嬉しかったのか、抱きついてきた。
緊縛師がどんなものか分かった上で側にいてほしい。と言う内容の求婚の言葉を色々考えた末に「緊縛師の女房になってくれるか?」で落ち着きました。
⑪開眼・・・?
縛った女を見ても欲情することはないと思っていたのに、いざ目の当たりにしてみると理性を保っていられない。体の奥の方からふつふつと熱いものがせり上がってくるし、目や耳や指先から伝うもので既に股間のものは立ち上がっている。
このままだとまずい。頭では分かっているが、悪戯をし続けたいと思うだけでなく、膨らむ一方の衝動に身を任せたくて仕方がない。
求婚からの縛りで何か開眼したようです・・・w
⑫ルイに続いて結衣子
「……は」
熱が籠もった吐息を結衣子が漏らす。
渡海は下縄を張ろうとして前に出た。豊かな乳房を寄せ上げたとき、手のひらに感触が伝い意識が向きそうになったものだから、手早く縄を張り巡らせた。
結衣子の後ろに戻って閂を掛ける頃には、聞こえてくる息がすっかり艶めいたものになっていた。
「……っく」
ややきつめに閂を掛けたところ、呻くような声がした。
結衣子の様子を窺うために前に出る。正面から全身を一瞥し、彼女の目を確かめると潤み始めていた。それに、頬だけでなく上半身が紅潮している。
微細な変化を追っていると結衣子が顔を逸らした。渡海はそれを追いかける。
「わかった。望み通りにしてやる」
唇に弧を描き結衣子に告げると、渡海は手を彼女の背中に伸ばした。
できることなら吊ってやりたいが、そうなると胸縄に自重が掛かってしまう。彼女の体にこれ以上の負担を掛けることはしたくなかった。
そこで渡海は彼女の後ろに回り、素早く三本目の縄を継ぎ足した。そこから伸ばした縄を肩に掛け、下縄に引っかけ乳房をくびり出すように縄をぐっと引き上げると、赤い唇から悦が滲んだ吐息が漏れる。
「は……」
それだけでなく、流した足を摺り合わせながら結衣子は体を捩らせた。
「……んぁ、」
表情を窺うと、上気した頬はすっかり綻んでいる。開いていた黒い瞳は熱を帯び、何かを追い求めているような視線を宙にさまよわせていた。しかし、たっぷり時間を掛けて彼女は目を閉じる。
刹那の喜びに浸る結衣子の姿は、もはやミストレスではない。気圧されそうな気高さや強さはそこにはないが、今まで接した中で一番彼女自身と向き合えたような気にさせられた。
背中から引き絞った縄を留めるために背後に戻り、しっかり結んで渡海は再び結衣子と対峙した。
「目ぇ、開けろよ、女王サマ。俺を見ろ」
細い顎に指を掛け上向かせると、何が気に入らないのか薄く開いた目がにらみ付けてきた。
以前なら怯んでしまっただろうけれど、今はかわいらしいものに思えてしまい、渡海は笑みを漏らす。
「睨めとは言ってねえぞ」
渡海は顎に掛けた指先を頬に向けた。
しっとりと濡れた頬に手を添えて問いかける。
「気分は?」
手のひらに触れた柔肌は火照っていた。
今だ鋭い眼光を放つ目を見つめ返しながら尋ねると、息を漏らすように彼女は応えてくれた。
「……悪くないわ」
不敵な笑みさえ浮かばせているところをみると、まだ余裕らしい。
もう少し引き絞れば良かったと内心で思いながら渡海は苦笑する。
「悪くなけりゃそれでいい。今すぐ解くから」
「卒業試験」の前に、ルイが稽古中に縄に酔ってます。生身の結衣子を縛り、胸の奥に潜んでいたものを引き出した渡海。ここでようやく彼女からOKサインを貰うことに。
⑬ベルリンで結衣子が感じたものは・・・
「本当はあの日、ずっと苦しそうだったあなたのこと、抱きしめたくて仕方がなかった」
「え?」
何のことかすぐに分からず、渡海は小首を傾げた。
結衣子に目をやると、優しげな笑みを浮かべている。
「ベルリンでの渡海くんの縄が、とても寂しかったの。だからつい先生に連絡を取ってしまったのよ。もしも縄で困っているのなら、力になれるのはまず先生でしょう。って思ってたんだけど……、叱られちゃうほうが先とはちょっと、予想外で……その、軽率だったわ。ごめんなさい……」
結衣子から小声で告げられ、渡海は小さく息を吐く。
「でも、渡海くんの縄変わった。羽ばたこうとしてるような縄だったわ。海を渡る、渡り鳥みたいな」
縄が変わったと言われたとき、渡海は目を大きくさせた。
結衣子と再会を果たした頃に比べたら、スムーズに縄を手繰れるようになっていた。しかも、縛っている相手の反応に合わせながら自由に縛れるような気さえする。
そう思えるのも、仲秋がみっちり基本を教えてくれたからだ。
基本となる縛りが手や体に染みついているから、いくらでも応用できる。師から受け着いたもののありがたさを、今更ながら実感せずにはいられなかった。
「羽ばたく、か……」
結衣子がケヴィンとメリーナから聞いたベルリンのステージの感想は「寂しかった」でした。
詳しい事情を知らない彼らでさえそう思うほど、渡海は私情塗れだったということ。そしてそれは結衣子も感じたものでしたが、彼女はそれをぽつぽつと伝えながら怒りをぶつけてきました。
ステージに至った詳しい事情を知るにつれて結衣子の中でも変化はあったんじゃないかなあ、だから姉弟子であるわたしが救ってあげたいという気持ちになったんだろうと推測。
⑭ルイのけじめ
「マサキ、聞いてほしいことがあるの」
ルイから思い詰めたような表情を向けられ、渡海は困惑した。
「な、なんだ、いきなり」
席に腰を下ろしながら尋ねると、彼女は意を決したように口を開いた。
この後に語られるルイの言葉の背景には、乳蜜で語られないエピソードが絡んでいます。
そこは蛇でゆっくりと書きますねー。
そして、彼女が康孝と結婚する本当の理由も登場。蛇ではまだ出てないねー。
⑮献上品
「ん?」
含んだときに口内に広がる味と香りには覚えがあった。
記憶をたぐり寄せてみると、いつどこで嗅いだものなのか思い出してしまい、渡海は「あっ!」と声を張る。
「光、この酒!」
勢いよく身を乗り出すと、光は平然とした様子で酒瓶を掲げて見せた。
間違いない。アビスで飲んだ酒と同じだ。渡海は目を見張る。
「スコッチの王様、ザ・マッカランのレアカスクですよ。今日入ったばかりの名酒です。これがどうかしましたか?」
「そっ、それ、売ってくれ!」
「嫌です。やっと手に入れた酒を、易々と差し上げる気はありません」
「今、俺に飲ませたじゃないか!」
「ええ。友人ですからね。一緒に飲もうかなと思って開けたんです。だって、渡海さんもやっと吹っ切れたことですし」
そう言って、光は自分自身のロックグラスに琥珀色の酒を手酌で注いだ。
「はい、乾杯。あとは歩さんをよろしくお願いしますよ」
チンと硬質な音を立てると、光はぐいと酒を飲んだ。
「うまい。口の中に入れてすぐ……
「それ、高いのか?」
光の言葉を遮るように尋ねると、軽蔑するような目線を向けられた。
「高いですよ。お店で出すと。ああ、でも勘定は気にしないで下さい。わたしのおごりですから」
「どこで売ってるんだ、その酒」
「酒屋さんで買えないこともないけれど、受注しないと買えない酒です。つきあいのある酒屋さんが発注ミスで多く仕入れてしまったらしく、買ってくれないかって頼み込まれたから引き取らせて頂いたんです」
かなり希少な酒であることを思い知らされ、渡海は肩を落とした。
しかし。
「あ、でも。渡海さんがうちでステージやってくれるのなら、一本差し上げます」
この続きは追憶の「女王様の最後の試練 23」でお楽しみください。ちな、かのこさんの「飛べない鳥は夜に羽ばたく」のフクロウくんも登場しています。
⑯仲秋国重という男
仲秋が襖を開くと、かつて仲秋自身が袖を通したと思われる黒大島が衣紋掛けに掛けられていた。しかも一枚二枚ではない。壁に掛かっているものだけではなく、たとう紙の上に並べられているものもあった。
柄がないものが多かったけれど、唐草模様が入ったものや師が好む赤いボタンが入ったものもある。どうしてこのようにずらりと並べられているのかその理由が分からず、渡海は戸口に立ったままぼう然となりながら黒い着物を眺めた。
「ステージで黒大島を着るようになったのは、わたしの師匠から勧められたからだった。黒は隠す色だ。お前の中にいる獣を隠すために身につけろと言われてな」
部屋に足を踏み入れた仲秋が、着物を眺めながら懐かしそうに話し出す。
ここの回はずっと暖めていた先生の裏設定大放出でした。先生の過去を書くのはとてもしんどかったです。
今回、追憶では裏仲秋、乳蜜では表仲秋としてそれぞれ書いていた訳なんですが、もともとは聖人君子の師匠としてしか先生は決めてなかった。そこに西条さんが肉付けをしたことにより裏設定が決まったという。
先生がそれぞれの話で見せた顔はどれも本当の顔。しかし、その影では苦悩があったという・・・。
西条さんが裏仲秋をこれでもかという感じに仕上げてくださったので、表仲秋をこれでもかという感じで書くことができました。
⑰相棒
「マサキ、ルイ、そろそろ出ろ」
黒大島に羽織り姿のレオンから告げられた直後、渡海はその場を立ち上がり手早く帯を締め直した。
「行くか」
気持ちを引き締めルイに声を掛け、手を差し伸べる。
「今日もよろしくね」
ルイが笑みを向けながら、白い手を重ねてきた。
「ああ。頼むぞ相棒」
小さな手を握りしめ、わずかに持ち上げる。
「頼むわよ、相棒」
凜とした声で頼んだ後すっと立ち上がったルイとともに、渡海は部屋をあとにした。
ステージ当日回は全部萌える。渡海がステージで使った曲をエンドレスで掛けながらほぼ一気に書きました。
ステージ回はいわゆるゾーンに入っていたため、書き終わって寝て起きたあと読み返したら、あれ?こんなの書いてたっけ状態。そして気力と体力が尽きてしまい、推敲しているうちに寝落ちという・・・。
ルイの頬に手を添えて「酔わせねえ」のくだりは書きながらもう胸がいっぱいで・・・。
今回読み返したらまた胸いっぱいになりました。
⑱結衣子の未来
「だから、サボっちゃだめよぅ。わたしの未来のために尽力してちょうだい」
「サボりはしねえよ」
急にからかわれ、渡海は口を尖らせる。
しかし、今聞いたばかりの話に引っかかりを覚えて、探るような目を向けた。
「今、わたしの未来っていってたよな。店のオーナーにミストレス、他になにをしようとしてるんだ?」
結衣子に尋ねると、彼女は即答した。
「緊縛師」
いきなり飛び出た言葉に驚いて、渡海は目を大きくさせる。
だが、すぐに平静を取り戻し、再び問いかけた。
「あ、いや、俺よりも十分素質があるんだから、なればいい。けど、どうして緊縛師になろうとしてるんだ?」
「気が変わったのよ。あと一年くらいでボンデージ脱いで箱庭を観察するつもりだったけど、やっぱ性に合わないわ」
渡海は怪訝な顔をする。
箱庭とは店のことだろう。それに、ボンデージを脱ぐということは、多分経営に回るつもりで考えていたのかもしれないが、彼女がそちら側に回った姿が想像できなかった。
というよりも、それで彼女が満足できるとは思えない。だって、彼女は抗いきれない衝動を抱えているし、瑛二たちが口を揃えて言っていた悪いクセもあるからだ。
それを自分でもよく分かっているのだろう。結衣子は自嘲気味な笑みを浮かべている。
「ふうん。何があったんだか」
何かを変えるには、当然きっかけが存在している。
自分の場合は、結衣子たちが抱えているものが分かったことがきっかけだったけれど、彼女が緊縛師になることを決めたきっかけはなんだろう。
渡海は結衣子に探るような目を向け続けた。
「あなたが変わったのとおんなじよ。私もいろいろ受け入れただけ」
以前、西条さんに女王と縄痕を読んだあと、結衣子の未来が見えないとお話させて頂いたことがありました。悪い意味じゃないです。わたしは「その後」を想像しながら最終話を書いていることが多いので、例えば渡海は歩の尻に敷かれているんだろうなーとか、渡海は結衣子ときょうだい喧嘩のような言い合いをするんだろうなーとか、口で勝てないからアビスに言って瑛二にぐだを巻いて、また酒のんで結衣子に怒られるんだろうなーとか想像してしまうのです。
が、結衣子の物語は先が想像つかなかった。西条さんからある程度結衣子のその後についてこういう流れになるんじゃないかなあと聞いてはいましたが(店の経営に専念)彼女がそうなるのは「やるべきこと」をし終えたあとじゃないかと思っていたのです。
多分西条さんも結衣子の「近い未来」を追憶を書きながら考えていたと思います。が、なんといっても結衣子は自主的に動いてしまう子ですんで、作者はそれを追いかけて書き記すのみ。最後の最後で「緊縛師」を選んだことは驚きだったし納得でした。また、そこに居たる過程も同様です。
⑲最後の最後で
「先生とはただの師匠と弟子ではなかったんだろう?」
今度こそはっきり尋ねると、結衣子は困惑しているような笑みを浮かべた。
「ただの師匠と弟子じゃなかったから、少しだけ責任を感じて弟子だと名乗らないのよ」
やはりあのとき言ったものは、仲秋の妻に対してのものだったらしい。
台所へ入る前に、仲秋の妻が使っていた部屋を見ていた結衣子の表情が頭に浮かび、そのとき気づけなかったことを渡海は悔いた。
「でも、仲秋国重から責め縄を教わり会得した、その自負と誇りだけはあるの」
実はここ、当初は違うセリフでしたが、彼女が選んだ未来と同様、わたしは断然こっち推し。
⑳ラストシーン
「ただいま」
家の中に入ると、パタパタと足音が聞こえてきた。
駆け寄る歩の姿が視界に入った途端、気が緩んだ。
「おかえりなさい」
出迎える恋人の笑顔に笑みで返すと、渡海は切り出した。
「全部終わったから、そろそろ決めないとな」
すると、歩からきょとんとした顔を向けられる。
「何を決めるの?」
「お前んちに挨拶行く日だよ。その前に根回し頼む。挨拶に行った日に殴られるのだけはごめんだ」
光と綾の結婚式の折聞こえて来た母と娘の会話を思い返しながら告げると、恋人は嬉しそうな顔をした。
「ただいま」「おかえりなさい」は当初ステージのあとに繋がるエピでしたが、考えた末に最後に移動。
と、二十個もあげてしまった(しろめ
パートナーの章は、今までの総決算なので、どれも好きなエピなんですよ・・・。
それだけに選ぶのがつらかった・・・。
今まで抑えていた分弾けましたし、気力もぶっとんだし、寝落ちの回数も多かった(何自慢?
そしてまさか三十七万字を超えるなんて思わなかったよ・・・(ぴえん
お陰でノーパソの「B」がおかしくなったし、「M」と「N」の字が消えたし「変換」の字も消えつつある。新しいノーパソそろそろ決めなきゃ・・・。
ということで自萌え終わります!
谷崎文音拝
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