わたしが好きなシーン(追憶

こんばんは、谷崎です。

何も書かないでいると一日が長いなあと感じてます。

しかし、やることはあるのさ・・・。

すだれを設置したり夏用の絨毯敷いたり、夏用のカーテンに変えたり衣替えしたり、DIYしたり(現在本棚を制作中)、ハムスターの世話したり(マジガミされながら)熱帯魚水槽の掃除したり・・・。ベランダに置いてある鉢植えも、ここ数日あったかいを通り越し暑さを覚えるようになったせいかぐんぐん育ってる・・・。

あー、夏だねー。七月には電書出さないとだねー。と言いながらガリガリ君を食ってました、はい。


では、今日は追憶語り!

打ち上げ後ー男縄会は瑛二くん視点。心を鷲づかみにされてしまったシーンが多かった!


➀それぞれの日常

 まだ寝ぼけている目をこすりながら、瑛二はスツールに座ってスマホを耳に押し当てた。
 キッチンでコーヒーメーカがこぽこぽと音を立てて、柔らかな匂いを振り撒いている。その奥では遥香が食パンをトースターにセットしていた。
 しばらく鳴っていたコール音が途切れ、「はいはーい」と機嫌の良さそうな結衣子の声が返ってくる。
「おはよう、瑛二くん。珍しいわね朝から電話なんて」
 昨日の打ち上げで聞いた切なげな涙声などなかったかのようだ。とはいえ昨日だって、更衣室から出てきた時にはケロッとしていた。
 切り替えの早さをつくづく思い知りながら、瑛二は眠たい声のままぶっきらぼうにおう、と返して本題に入った。
「明日の夕方にでもマサとルゥのフライヤーの写真撮影をしようと思うんだ」
「あら、ずいぶん急ね」
「仕事が増えてしょーがねえんだよ。店での撮影依頼に講習の依頼にってばんばん入ってきやがるからな。先に押さえておかねえと撮り逃がす。お前んとこもそうだろ?」
「そうなの。ステージやりたいって方に、取材依頼、むしろ私に縛りに来てほしいって方まで」
 楽しそうにくすくすとこぼれた笑みが鼓膜をくすぐる。瑛二が嘆息していると、遥香がコーヒーの入ったマグカップを瑛二の前に置いた。手を上げると彼女はにこりと微笑んだ。
「明日の夕方ね。アビスで?」
「のつもりだ」
「そう。あっ、稜くん、オレンジ剥いていい?」
 向こうも朝食時のようだ。早めに切り上げようと瑛二は「お前来るか?」と尋ねた。

瑛二と遥香の日常と、結衣子と稜の日常がクロスされているシーン。いわばオフのシーンにオンが加わっている場面です。会話を交わしている瑛二と結衣子の影に遥香と稜の動きが入り馴染んでいる穏やかな一幕。


➁女王様から罪人までよりどりみどり

「ルカ。初ノットの時から撮ったルゥの写真、全部ピックアップしていつものウェブな。あと今日撮るのも、フライヤー候補とフォトブック用とそれぞれで」
「りょうかーい。これまでのだけでもいっぱいあるもんね、瑠衣さん選ぶの大変かも」
「え? 選ぶって……」
 きょとんと首をかしげた瑠衣に、瑛二は口角の上がった顔を向けた。
「つまりファンへの礼なんだろ? あとで連絡先教えてくれ。そこにウェブアドレス送るから、そっから自分で選ぶといい。女王様から罪人までよりどりみどりだ」

ルイが初めて8 Knotに行ったとき、瑛二に縛られ遥香に縛られました。そのなかには、遥香と結衣子が導いた女王様姿のものもありますし、仲秋先生に縛られた罪人姿のものも・・・。

真っ白なルイだからこそ、状況に応じて多彩な表情を出せた写真集、わたしがほしいよ・・・。


➂器用さ

 次に瑛二が思い出したのは稜の縛りだ。あの男は縄を覚える際、教わる縄そのものをトレースするような模倣から入る。
 しかしそれがただの模倣にならないのは、稜自身の信条と目的が明確だからである。

写真撮影の折、考えすぎてルイを縛れなくなった渡海は兄弟子であるレオンの縛りを真似ますが、それまでの渡海の縄を受け続けたルイにとっては不安なものでしかない。それを見て瑛二が稜のことを考えてしまったワンシーン。

最初は瑛二の縛りを真似て、それを自分のものにした稜。すべては結衣子の側にいたいがため。そして瑛二を越えるため。ああ、そうだったそうだったと色々思い出した場面でもあります。


➃仲秋の目的

「センセーはノットでやらせてぇみたいだがな、会場に関しちゃぶっちゃけこだわらなくてもいいと俺は思ってる」
 渡海が抱える羽目になった苦悩のすべての発端は、仲秋がステージを8 Knotでやろうと言い出したことにある。
 結衣子はそこで、瑠衣のプロ意識と意地を見せるよう発破をかけた。フェティッシュバーでのステージがなにを求められているかも説いた。だが、仲秋のそれが終わった今、渡海までこだわる必要はどこにもないのだ。
 結衣子が求めるものが渡海の行うそれとは違うことを、仲秋はわかっていたはずだ。渡海がそこで躓くであろうことも。
 もしも8 Knotでやらないとなっても、結衣子はさほど気にしないだろう。静かに「残念ね」と言って、話が立ち消えるだけである。

瑛二が渡海を煽るシーンですが、仲秋の目的について考えるシーンでもあります。

ここは瑛二視点だから書けたこと。今回西条さんは結衣子視点と瑛二視点で、それぞれ「ある事実」に向かって書いてくれました。

それらを通して読んでみて、結衣子と瑛二は関係性を変えた「ふたり」になったんだなあと改めて実感させられました。


➄遥香とのやりとり

 瑠衣と、その後ろから引きずるような足取りで階段を上っていった渡海を遥香と見送って、瑛二は先にフロアに戻る。と、すぐに足音を大きくさせて追ってきた遥香が、ついっと瑛二の袖を引いた。
 むくれた顔の口が尖る。
「意地悪」
「なにが」
「根性悪」
「だぁから、なにがだよ?」
「あんな言い方して。かわいくないんだから」
 鼻息を荒げながら文句を並べて畳み掛けてくる遥香に、瑛二は半ばふてくされて後頭部に手を差し入れた。
 自覚はそれなりにある。が、いい加減見ていられなくもなったのだ。元来瑛二は気が長くない。

遥香と瑛二のやりとり、好き。結衣子と瑛二の会話よりも、柔らかいというかなんつーか。

まあ、大体瑛二くんが結衣子に言い負かされることが多かったし、そういうのを見続けていたから柔らかく見えるのかもしれない・・・。

結衣子と稜の会話もいいですよね。柔らかくて。


➅アナグラ

「忘れ物は、ある。だから来た」
 渡海が忘れてしまった、物ではないものを掴みに。その手にまた縄を握るために。
 賭けはどうやら瑛二の勝ちだ。勝利の栄光も相まって瑛二の口角はにぃっと上がり、渡海へ数歩近づいた。
「そんなら待ってた。歓迎するよ」
 abyss 9はロープアートバー。女王様が築いたアナグラである。
 この場所は、縛りたい、縛られたいという願いを持った、どうしようもない者のためにあるのだ。

今回の書き下ろしを書くとき、瑛二と遥香のその後が見たいんだよねーと西条さんにボールを投げたところ、アビスというアナグラとなって返ってきました。そこでまさか男縄会が開かれることになって、そこで渡海の転機が訪れるなんて、アナグラ登場回を読んだときには(文字数


➆トウトイ

 そろそろほどこうか、それとももう少し詰めて聞いてみようか、と思ったところで、ドアが開く音がした。稜が来たようだ。バーテンダー姿でフロアに足を踏み入れ、瑛二と縛られた渡海を交互に見ている。 
「え……っと?」
 稜は状況の把握に手間取っているように、右眉にかかる程度に額を流れる前髪を撫でつけた。
「おう、来たか」
 瑛二が言うと、渡海がようやく稜に気づく。稜は渡海に目を向け、合点がいったように顎を突き上げた。
「あれだ、ルカとメリーナがはしゃいでた『尊い』ってやつね。まあアビスだしね、そういうこともあるか」
「バカ言ってねえでこっち来い」
 呆れて瑛二が顎をしゃくると、稜がくすくすと肩を揺らして歩み寄ってきた。渡海は未だ稜がいることに理解が及んでいないのか、硬直したままだった。

レオンたち一行がアビスに行ったときのエピソードの中に、瑛二を縛ったレオンを見て、メリーナが目を輝かせていたものがありました。あれは予定外のものだったんですが(書いているうちに出てきた)それがここにも波及w

メリーナはBL好きの腐女子。夫であるケヴィンはそんな妻を心から愛してますし、彼女の趣味を尊重しているわけです。そして、ルカ、ルイもメリーナからBLをレクチャーされて、彼女のトウトイを共有できるまでになったのは、また別のお話・・・。


⑧レアカスク

 奥のフリースペースに座る二人の前に、どん、と一本の優美なマホガニー色を湛えたボトルを置いた。
 その横に、花開いたように口が広がる三つのロックグラスとステンレスのアイスペールを載せたトレイも据える。二人の目はそのあいだも、化粧箱から出したばかりの秘蔵酒に注がれた。
「うわ、これ開店祝いにもらったザ・マッカランのレアカスク。怒られるよ、瑛二さん」
「知るか、ここの主は俺だ」
 稜が目ざとく見咎めるのも構わずキャップを開ける。瓶を傾けると、開栓したてのトクトクという音が、フロアに小さく流れるジャズロックに潤いを与えた。
 クリスタルの輝きの中にマホガニー色が濃く沈んだグラスを、渡海に押し付けるように渡す。

瑛二・・・。君は翌日あんな写真を撮られた上に、ピエールのチョコを結衣子に献上する羽目になるんだぞw

写真を撮るまでのエピソード、いずれ公開すると思います。お互いの原稿をチェックしながらコメント交換した際、そのエピソードを教えて貰ったのですが、だよなそうなるよなwと思いました、まる。


➈ピーン

 結衣子には、仲秋からの明確な独り立ちのタイミングはなかっただろう。だとすると、なにか禍根が残っても不思議ではない。
 たった二ヶ月で離れていった、愛弟子以上の思い入れがある女に抱く未練。伴侶となったサディストの稜にだって、さぞ嫉妬したはずだ。
 そこにきて思いがけない再会と、自身の引退。それから結衣子の、悪いくせ。
 ――私を見て、か……。
 目の前で瑠衣を縛り、公にしている弟子をステージに呼んだ仲秋を、結衣子はどんな思いで見ていたのだろう。
 優秀な弟子としての矜持も、一人の女として愛された自負も結衣子にはあったはずだ。渡海と瑠衣に対してそれぞれ、種類の異なる憤りを覚えたことは疑いようがない。
 同時に深い、さみしさも。
 それらを仲秋も理解していたとしたら。仲秋が結衣子を『見ている』と伝えるために、あの着物を用意したとしたら。
 涙の理由としては十分すぎる。加えて結衣子の願いを叶える男としては相当手強い。
 稜は「なるほどね」と、ほとんど無意識のように渡海に返す。瑛二と限りなく近い答えに、稜もたどり着いたようだった。

渡海からいろいろ聞いて二人の男たちはピーンと来たわけです。

でも、このとき渡海は何も気づいていません。

どこで渡海が気づくのか。そのあたりを西条さんと打ち合わせした際、最後の最後にしようということであのエピローグが産まれました。案はかなり早い時期にできてましたし、衝撃的なその後のことまで西条さんから聞かされて。

んで、その後、仲秋先生の「その後」を考えることになり、ある「未来」を西条さんにお伝えしましたら、こういう結びになった、と。

その「未来」はコンクパールの指輪の中に登場しますので気になる方は是非!!(いきなり自作のダイマ)


➈自分を振り返る

 稜がいつから瑛二を強く意識するようになっていたのか。聞けば、割と最初の頃からだったという。結衣子にとっての瑛二の存在や、縄の意味。それでも恋人でいなかったこと。聡い彼は早々に悟り、瑛二に縄を教えてほしいと請うてきた。その時の、まだ青さを残した自分たちのことがふと、頭に浮かんだ。
「そうかもな……」
 渡海もそれに沁み入った声で同調する。瑛二も内心でうなずいていた。今結衣子の身体に縄痕を見ても、腹が立つことはない。ただほんの少し、寂しくなるだけだ。

瑛二視点のキモは、やっぱり「あの頃」を振り返るシーンです。

中身はどうであれ、渡海はまさに「過去」と向き合い乗り越えようとしている最中。それに瑛二が自分自身を重ねないわけがないよ・・・。

ずっと余白だった結衣子の過去の象徴ともいえる仲秋先生が現れたこと。そして結衣子が先生にコンタクトを取ったこと。全ては女王の四人が、次の段階へ進むために必要なことだったんじゃないか、と思わされたシーンでした。


⑩瑛二と稜

-1

 渡海は瑛二と稜を交互に見た。先に口火を切ったのは瑛二だった。
「ならないって言ったら嘘になるが、あいつは縄を教えたり読んだりするのにしょっちゅう受け手を買って出る。気にしてたらキリがねえよ」
「うん、そういう意味じゃ慣れてる。けど、練習台とは明らかに違う縄痕を刻んでることが時々あってね」
 稜があとに続けてくつくつと笑う。
「違う縄痕?」
 瑛二は稜を、稜は瑛二を、それぞれ指差した。渡海が納得したような顔になり、瑛二はため息交じりに笑った。
「そこで怒れりゃ健全だがな、ライバル心が芽生えちまった」
「お互いね。彼女が肌を隠すボンデージを着てる時は、覚えのない方は誘わない。そんな暗黙の了解があった」
 稜もあの頃の自分たちを嗜めるように告げ、笑みを唇に浮かべた。
 三人がそれぞれ好きにしていた時はそれでもよかった。三人の誰もが決定的な言葉を何一つ口にしない。

-2

「ところであんたら二人、随分と仲が良いようだが、それは、その複雑な関係だったときもなのか?」
 聞かれたことが一瞬理解できず、瑛二は面食らった顔を稜に向けた。稜も同じような顔をしている。
 仲がどうなんて考えたこともない。稜の第一印象はいけ好かなかったし、事あるごとに可愛くないとも思っていた。縄を教え、店があって、結衣子がいたから付き合ってきただけだ。
「……悪くはなかったか?」
「まあ、多分。俺が大人だから」
 自信なく瑛二が言うと、稜がくっと喉を鳴らす。今でこそ友人と呼べるが、その達観したような表情に、だから自分では駄目だったのだと改めて瑛二は思った。
「だな、俺のがおとなげなかった。認めたくなかったからな」
「うん。牽制し合うようなこともしたし、内心苛立ってしょうがなかった。人の胸ぐら掴んだのなんて瑛二さんが初めてだったよ。わだかまりがなくなったのは、彼女とのことがひと段落してからだ」
 稜のしみじみとした口調には、深い落ち着きが混ざっていた。そこに渡海が感心したように声を挟んだ。
「そんなことがあったにもかかわらず、フツーに二人で喋り合ってるのがすげえよ……」
 苦笑する渡海のセリフに、瑛二と稜は目配せしあう。
 なんてことはない。互いに引かず己を貫き、互いが結衣子を尊重しただけだ。仲違いしてしまえば、それも彼女の憂いになっただろうから。

このあたりを読んだとき、仲秋邸で瑛二が渡海に話したことが浮かびました。

特にこのセリフ。

「そんなんが続いてたある時、結衣子が部屋を買った」

「買った?」

「ああ。S転してまあまあ名前が知れてきたあとだな。女王サマは自分と同じようなどーしようもないもんを抱えちまった人間たちが集える城を作った。そのあたりに終わりを匂わされたが、俺は断った」

「どうして?」

「結衣子が本気で離れようとしてなかったからだよ」

 即答だった。

「面倒な関係が続いていたところに結衣子が稜を拾ってきた。稜から結衣子を縄酔いさせたいって言われたときは頭にきたね。そんだけでなにがあったか全部わかって嫉妬もした。それに……」

 瑛二はわずかに表情を曇らせた。

「俺には甘えないくせに、あいつにはしっかり甘えてたんだ……」

そうなるために稜は相当努力しました。それでようやく瑛二は認めたわけです。

「稜は俺と対等になろうとして努力した。結衣子と俺にそれがわかるように、ずっと間近で。何度蹴落としても、絶対に這い上がってきてな」

 だから、と瑛二は続ける。

「稜だから俺は結衣子を託した。そう決めるまで時間は掛かったが、今はこれで良かったと思ってる」

遥香があらわれたことで三人の関係は違ったものになりました。その間、稜も瑛二もそれぞれを認め合える関係になったし、それで今の四人となったんだよなあ、と。

今回の書き下ろしで女王をファンの方はいろんなものの「答え合わせ」ができたと思います。わたしも答え合わせができた一人です。


⑪なにいってんだ、こいつらw

「俺見せた」
「え?」
「セックス」
 瑛二を二度見した渡海に、また端的に言う。
 なにを言い出すのかと言わんばかりに、渡海の口が半開きになった。すかさず向かいの稜の瞳が、格好の獲物を見つけたような色に染まった。
「結衣子さんとのね。俺とルカの目の前で」
「な。今考えるとほんとひでえ話だな」
「なんなら3Pもしたもんね」
 すると渡海はいよいよ混乱したように目を白黒させて、瑛二と稜を交互に見る。
「さ、さ、さんぴー、って…」
 彼のうろたえようは尋常でなく、初めてその語を口にしたかのようにたどたどしい。
「まあ、ノリでな。稜と結衣子の三人で……、あ、お前複数とかやったことないのか」
「あ、ああっ、あるわけないだろ!」
 渡海が勢いよく言い放って身を乗り出す。これだけの酒を飲んでも平然としていた渡海の顔が、すっかり真っ赤に染まっていた。 
「瑛二さん、一応それが世の中のスタンダードだからさ」
 そう言う稜が浮かべた苦笑の半分は、笑みを噛み砕いているように見えなくもなかった。
 渡海を見れば首も耳も赤い。まるでまったく免疫がないかのような過剰な反応に、瑛二は思わず真顔になる。 
「……マサ、お前童貞じゃねえよな」
「はっ!?」
「や、随分ウブな反応するからよ」
 ぎょっとした渡海に瑛二が指摘すると、彼の目があからさまに宙をさまよった。
「それはないでしょ、瑠衣さんと付き合ってたんだし。ねえ」
 稜はポーカーフェイスを貫いているが、面白がっているのは明らかだ。
「ん? ルゥと付き合ったの何歳のときだ? 専属が三年で、その前からで……」
 この際一切合切喋ってもらおう。
 瑛二が顎に手をやって考える素振りをしていると、渡海が古びたブリキのロボットのようにぎこちなく顔を逸らした。 
「……二十九か、三十だ……」
 瑛二の口元が思わず緩んだ。次の瞬間稜がぼそっと「初体験」と声を滑り込ませる。
 渡海の身体が大げさなほど脈打ち、またカクカクと稜の方へ戻ってきた。
「もしかしてお前ルゥが初めてか!?」
 気分がはしゃぐのを堪えきれず、瑛二は床をバンッと叩いて身体を前のめりにした。
 まるで中学生の修学旅行の夜のようだ。誰が好きだのエロいだのを話した夜。しかしやり玉に挙げられた渡海は、魂が抜けてしまったかのように硬直している。
「マジかおまっ……いや、いい、いいと思うぞそういうの、ああ、でっ、どうだっ――」
「もう深く触れないでおこうよ瑛二さん。プライベートなことだから、ね、ほらウイスキー」
 稜が瑛二の腕を掴んで引っ張った。瑛二の意識は一瞬注がれる酒に戻ったが、興奮は冷めなかった。
「渡海さんもごめんね、からかちゃって」
 一人冷静なまま、稜は抜け目なく渡海に謝罪を述べる。
「でもこういう話ってなかなかしないから新鮮。なんで渡海さんが潔癖で純なのかわかった」

ここで暴露しますが、渡海のはじめてはルイです。

しかし、ルイはすでにはじめてではなかったので、ルイに「色々」教えて貰ったんです。

そしてあんなことまでねえ・・・(とおいめ

渡海の女性遍歴をルイ以外で埋めるということは考えてなかった。乳蜜でちょっと触れていますが、渡海さんちのご両親は結婚していないし、芸者とカメラマンという設定だったので、一般的な夫婦らしさってなかったし、男と女のあり方も世間一般とはちょっと違う。それがまあ、ルイと結婚することを躊躇っていた理由だったりします。

まあ、そんなことよりも、渡海さんがルイと付き合うまで童貞だった事実が明かされたというほうが衝撃的wまさに災難wでも、中学生の修学旅行のような一夜となりました。

ちな、このセリフもかなり初期に産まれました。

「俺見せた」

「え?」

「セックス」

「なんなら3Pもしたもんね」


⑫どきどき

「縄を読む、か……」
 独り言のように呟いたあと、渡海はなにかに気づいたように顔を上げる。
 彼らの過去に渡海も気づいたかと、瑛二は一瞬身構えた。が、 
「今の先生の縄も読みたい。女王サマはそう言ってた。ノットで」
 呆気なく杞憂に終わり、内心でほっと胸を撫でおろした。
 それはそれで本心だろう。だが、本質ではない。
「縄を読むのに本気である必要はないよ」
 稜が小さく嘆息して言ったあと、瑛二も重ねた。渡海は潔癖な男だ。この調子で気づかないでいてくれた方がいい。

瑛二はともかく、稜もこの時点で気づいていたと思います。でも渡海は気づいていないというね・・・。


⑬ちょw

「なーに怖がってんだ。あいつは確かにきついし可愛くねえ。めんどくせえわ気まぐれで好き放題するわでどうしようもねえ」
「ちょっと瑛二さん」

瑛二は単刀直入w


⑭わたしを見て

「ああ……。自己紹介、というには、ちょっと……」
「それも先生直伝の責め縄をしながら。彼女が先生の弟子だったなんて、俺たちもあの時初めて知った」
「ベルリンで縛った時先生の名前を出したから、それのネタばらしにしては、随分、その、手が込んでるというか、主張しているような……」
「ね。まるで『私を見て』って言ってるみたいだ」
 今の結衣子を形成しているすべてを晒してでも、結衣子が渡海に教えたかったもの。
 自分が受け手として、縛り手にどうあってほしいか。自分が縛り手として、受け手に対しどうあろうとしているか。
 ブレることのない一本の筋道。
「あ」
 それがようやく渡海へ届いたのが、瑛二にはわかった。
「私を見て、か……」
 渡海の声に、瑛二は思わず訳知り顔になる。稜も安堵したような息をついてうなずいた。

業を煮やした瑛二と稜からヒントを貰い、ようやく分かったシーン。

きっと瑛二たちがいなかったら、渡海は抗いきれない衝動がどういうものか分からないままだったでしょう。


⑮歩

-1

 気持ちとしてはわからないでもないが、それとこれとは話が別だ。瑛二はため息を噛み殺し、表層的な穏やかさを顔面に貼り付けた。 
「俺にとってのルカみてえだな。アユ、可愛いのか?」
「……アユ……」
 渡海はなにか言いたそうにしていたが、諦めたように告げる。

「俺にとってのルカみてえだな」に瑛二にとっての遥香がどんな存在なのか分かるんじゃないか、と思いました。

そしてそれは下記にも出ています。

-2

「縄で縛るってのがどういう行為か、ここ最近でお前もいろいろ知っただろ。整理ついでにアユに話しながら、手遊びでもいい、縄に触れてもらえ。どんな関係であっても受け手はいつも命がけなんだ。命の代償に愛されでもしなきゃ浮かばれねえよ」
 そう言ってふと、瑛二は今まで縄で縛ってきた者たちを思い返した。
 戸惑い、悦び、喘ぎ、乱れては恥じらう彼女たちを、綺麗にしてやろうといつも思いながら縄を手繰った。何枚も写真に撮り、ちゃんと見ていたことを彼女たちの中に残してきた。
 その思い出の奥に、透明感のあるソプラノで「縛って」と告げる、女の険しい顔があった。

遥香も瑛二がどんな思いを抱いて誰かに縄を掛けているか分かっているので、受け入れて側にいる。歩にもそうした覚悟を持たせられるようちゃんと説明しろ、と瑛二は言っているんです。

そうしなかったのが仲秋先生。悪い見本が側にいるから、そうしたほうがいい、とこのセリフを読みながらわたしは思いました。


女王と縄痕を読んでいたこともあり、追憶を読むといろんなことを思い出してしまう。

印象に残ったシーンを揚げるとキリがないんですが、とりあえずはここまでに留めました。

明日は西条さんの乳蜜語り。そしてその次はいよいよラストまでになります。

彼らがどんなことを経てステージに立ったのか。かのこさんの「飛べない鳥は夜に羽ばたく」で6/2更新回で登場していますが、客はどういう流れで演者が今舞台に立っているのかわからないです。

ただ、そこに至るまでの過程のなかで得たものの一片を感じ取ることはできるんじゃないか、と思います。


この続きはまた改めて

では感想お待ちしています!

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