わたしが好きなシーン(自萌え

こんにちは、谷崎です。

昨日から「飛べない鳥は夜に羽ばたく」がスタートしましたね。

今日も二話目が更新になっておりますので、ひな視点でそれまでの出来事の集大成となるステージシーンを見ていただけたら嬉しいし、作品から感じた「何か」を大事にしていただけたら嬉しいです。


さて、前回お休みした際は先生のステージ&打ち上げまでの間で「わたしが好きなシーン」を書いてきましたが、今日からそれを再開しますよー。

といっても、話数はそうでもないんですが、内容的に濃いということで、打ち上げ後ー男縄会・男縄会から最終話までの二回に分けてお届けしたいと思います。


➀ルイは渡海の手が大好き

「でもっ、マサキの手が入ってるのがいいんです」
――俺の、手?
 渡海は真顔になった。どうしてルイが自分の手をフライヤーに収めたいのか。その理由に心当たりがあるからだ。
 付き合っていた頃、ルイから常々言われた言葉がある。
『マサキの手、好きよ。大きくて、あったかくて』
 そう言って、ルイはほっそりとした頬に手を押しつけていた。
 それを思い出した途端、触れた柔らかい肌の感触が手のひらに蘇ってきただけでなく、胸の奥に切ない痛みが走った。
 フライヤーなんてものは、イベントが終わればただの紙切れだ。記念に保管している人間もいるけれど、いつの間にか忘れ去られていく。
 だが、そこに写っているものは、いつまでも変わらずそこにある。どれほどの時間を経てもなお、時間と空間を切り取った姿でずっと残り続けるのだ。
 胸の奥に走った切ない痛みが溶けていき、じわじわと体の奥へ染みこんでくる。記憶の片隅に残っているルイとの記憶が呼び起こされた。
 春の日差しのように温かい彼女の側にい続けた一年は、嫉妬で苦しんでいたけれど、それだけはなかった。手を繋いだだけで幸せな気分になったし、初めてキスを交わしたときは天にも昇る心地だった。それに、彼女から「初めての行為」を許されたときは、得も言われぬほど高揚したことを覚えている。
 なめらかな肌に這わせた指が、誰にも触れさせたことがない場所にたどり着いたときルイは腰を揺らめかせながら悩ましげな声を漏らした。そのときのことを思い返していると、顔だけでなく耳まで熱くなった。

蛇でも登場しましたね。手や指に残る記憶。

川端康成先生が書いた「雪国」のなかに、指にまつわる箇所があります。

「この指だけが、~ なまなましく覚えている」

「この指だけは女の触感で今も濡れていて」

「鼻につけて匂いを嗅いでみたり」

読みながら想像しているうちに「ひゃああああ」と大声で叫びたくなりました。

蛇を書いているうちに、それを思い出し、康孝の「わたしの指は覚えているよ」のシーンを書いたんで、渡海にもあってしかるべきだろうと。

それに、今回乳蜜の表紙のためにお借りした写真が素晴らしくて、それを作中で使いたかった。

指ってエロいよね、ほんとにねw


➁瑛二に煽られた・・・

 戸惑う遥香とともに店内に足を踏み入れると、瑛二がニヤニヤしながらこちらを向いていた。
「なんだ。忘れもんならなんもないぞ」
 軽薄そうな表情とは裏腹に、向けられている目は鋭いものだった。
 やはり試されていたのかと内心でぼやきながら、渡海は瑛二をまっすぐ見る。
「忘れ物は、ある。だから来た」
 すると瑛二は、我が意を得たりといった表情を浮かべ近づいてきた。
「そんなら待ってた。歓迎するよ」

このシーンの前段に、渡海は瑛二から突き放さすような言葉を掛けられています。

そして渡海はそれに応えた。頑固だった渡海が行動した最初の一歩。


➂言語化

「気分は?」
 瑛二に尋ねられたが、すぐに返事ができなかった。
 しばらく彼の黒い瞳を見つめたあと、渡海はゆっくりと口を開く。
「……安心する」
 安心して身を委ねられるような心地よさに浸っていると、再び尋ねられた。
「もうちょい言語化しろ。でないと自分のもんになんねえぞ。つっても俺が言っても説得力ねえけど」
 ついぞ今まで思い出せなかった記憶は、それに手を伸ばした途端、溶けるように消えていく。それがどうにも切なくてつらかった。それを伝えようとしたが、頭が全く働かない。しかし、どうにか言葉をたぐり寄せて返事する。 

瑛二が言った言語化しないと自分のものにならないということば、実はとても大事なことなんですよ。というのも、自分が自分の感情を言語化できないと、心理描写がきつくなります。それを身を以て分かっているので、このセリフを書きながら「そうだよそうだよそうだよ」と頷きました。


➃結衣子、怖し

 上半身に広がる痛みに耐えながら答えると、瑛二は意地悪い笑みを向けてきた。
「なんて言うか気になるからユイ呼ぶか」
 結衣子の名前が飛び出た直後、渡海は目を大きくさせた。
 身を乗り出そうとしたけれど、縄が更に食い込んだせいでできなかった。渡海は一瞬眉間に皺を寄せたが、すぐに真顔になる。
「それだけは止めてくれ」
 すると、何がおかしかったのか、瑛二が笑い出す。

この頃まで、渡海にとって結衣子は苦手というか合わない存在。それというのも、女王様が大事なことを言わなかったせいで(ベルリンで向き合っていないと言葉にしなかった)まあ、いろいろ面倒くさいというか厄介というかそんな出来事が続いたわけですから、彼女に対して苦手意識が芽生えてもなんら不思議じゃない。でも、このときを境に、渡海は殻から出ます。


➄こいつらは何を言ってるんだろう

「俺見せた」
「え?」
「セックス」
 真顔の瑛二を見つめたまま、渡海はぼう然となった。
 瑛二の向かい側にいる稜が平然とした顔で付け加える。
「結衣子さんとのね。俺とルカの目の前で」
「な。今考えるとほんとひでえ話だな」
 こいつらは何を言っているんだろう。
 渡海は二人を交互に見ながら、そう思った。
「なんなら3Pもしたもんね」
 稜の声が耳に入った直後、渡海は目を点にする。
「さ、さ、さんぴー、って…」
 動揺を隠せず棒読みになる。
 すると、瑛二が思い出話でもするかのように、ふつうに話し始めた。
「まあ、ノリでな。稜と結衣子の三人で……、あ、お前複数とかやったことないのか」
「あ、ああっ、あるわけないだろ!」
 いよいよ耐えきれず、渡海は顔を真っ赤にさせて、勢いよく身を乗り出した。
 一瞬の静寂のあと、稜が瑛二に苦笑を向ける。
「瑛二さん、一応それが世の中のスタンダードだからさ」
 その言葉に同意しながら瑛二を凝視していると、彼の目が探るようなものに変わった。
「……マサ、お前童貞じゃねえよな」
 「はっ!?」
 渡海はぎょっとした顔を瑛二に向ける。
 「や、随分ウブな反応するからよ」
 瑛二から澄ました顔を向けられているうちに、急にばつが悪くなってきて、渡海は視線をさまよわせる。 
それはないでしょ、ルイさんと付き合ってたんだし。ねえ」
 フォローしているようだが、されている気分はしなかった。
 いよいよ都合が悪くなり、渡海は逃げ出したい気分だった。
 まさかルイが初めてとは言いにくい。しかも彼女に色々教えて貰ったとは絶対に言えない。
 稜と瑛二から向けられている視線に、渡海は耐えた。
 しかし、追及の手は緩むことはない。先陣を切ったのはもちろん瑛二だ。
「ん? ルゥと付き合ったの何歳のときだ? 専属が三年で、その前からで……」
 思案顔の瑛二に、渡海はぶっきらぼうに告げた。
「……二十九か三十だ……」
 嫌な予感を抱きながら答えた直後、稜の声が耳に入った。
「……初体験」
 それが聞こえた直後、渡海は石のように体を硬直させた。
 恐る恐る稜に体を向けると目が合った。涼しげな笑みを向けられたけれど、笑い返す余裕などあるわけがない。
 バンッと床を叩く音がして、そちらに目をやると、瑛二が顔を喜々とさせて前のめりになっていた。
「もしかして、お前ルゥが初めてか!?」
 向けられた目は、期待で輝いていた。
 沈黙したのがまずかった。そう思ってみても後の祭りだ。
 瑛二の目を見ながら、渡海は心の底から悔やんだ。
「マジかおまっ……いや、いい、いいと思うぞそういうの、ああ、でっ、どうだっ――
 「もう深く触れないでおこうよ瑛二さん。プライベートなことだから、ね、ほらウイスキー」
 目の前で、稜が瑛二の腕を掴んで引っ張ると、彼のグラスに酒をなみなみと注いだ。
 瑛二の意識が酒に向くと、稜から申し訳なさそうな笑みを向けられた。
「渡海さんもごめんね、からかちゃって。でも、こういう話ってなかなかしないから新鮮。なんで渡海さんが潔癖で純なのかわかった」
 ボトルを差し出されからには、グラスを傾けなければならない。
 渡海は、顔を赤くさせたままグラスを突き出したのだった。

ここはあえて略せず転記しました。というのは、渡海の災難に目がいきますが、稜について結構大事な情報が含まれているからです。

冒頭にある「セックス見せた」「は?」「なんなら3Pもした」という会話は、追憶乳蜜の最初の頃には出来上がっていました。女王&縄痕を読んでいる方はそのシーンを思い出したと思います。

そして渡海のDT発覚とかまあいろいろあって、稜のストッパーぶりが登場なんですが・・・。

稜は渡海に結構大事なことを言ってるんですよね。仲秋邸でもそうですし、ここでもです。

彼のセリフから、彼は結衣子と同じような孤独を抱えていたことがあるんじゃないかとふと思ったのです。

「自分は友人たちとは違う」それを自覚すると、素の自分を隠し周りから浮かないようにしてきただんじゃないか。しかし、瑛二は我が道をずんずんいく男ですし、これが俺だと言わんばかりに己の中に芽吹いたサディズムを受け入れたでしょう。

スタンダード(世の中のふつう)を瑛二に説いた稜から、わたしはそう受け止めました。

・稜と瑛二、それぞれが自らの加虐を自覚したときのことについては、女王だったか縄痕に書かれています♡

そのとき、「あー、正反対だな、この二人」ってなんとなく感じたんですよね-。

と同時に、稜はもとライターですし、言語化に長けている。恐らく彼は彼で、苦悩して乗り越えてきたんだろうなと思ったら胸が詰まりまして・・・。

いつか西条さんに答え合わせさせていただきたい部分です。


➅駄目・・・w

「……でも、あんたら、好き放題許してんだろ。どうしてだ? あんだけ振り回してるのに」
「結衣子だからだよ。気は多い奴だがあれで一本の筋が通ってるんだ」
「だね。あとは俺も瑛二さんも、『どこか駄目』だからなんだろうけど」
 自嘲気味な笑みを浮かべる稜の口から飛び出た言葉のせいで、瑛二の言葉がかすんでしまった。
「どこか駄目……」
  渡海は、彼らをじろじろと見ながらつぶやいた。 

「わたしに惹かれる人ってどこか駄目な人だから」渡海が結衣子と再会したとき、彼女はそう言っていましたね。その駄目ポイントを、瑛二も稜も分かっている。

駄目ポイントについては、お話を書いている途中で西条さんから聞きましたが、ああなるほど!と納得できるものでした、はい。


➆ゆいこはこども

「警戒心? そりゃ仕方ねえ話だ。もう条件反射になってる」
 やけくそのように言いながら肩を竦めると、瑛二が呆れた顔で告げた。
「なにがそんな駄目なんだよ。うまい酒か菓子をやっときゃぴょんぴょん跳ねて喜ぶぞ」
「へ?」
 呆れた顔を瑛二に向けたとき、仲秋が結衣子に菓子を持参していたことを思い出した。

結衣子に関わる人間は、彼女がうまい酒かお菓子を貰うと機嫌が良くなることをよーく分かっています。そして、このあとに結衣子にまつわる大事なワードが登場し、渡海はようやく気づく。夜明け前のワンシーン。


⑧タコ、ルゥ、マグロ、マサ、アユ

 捨て鉢に言うと、また瑛二の声がした。
「俺にとってのルカみてえだな。アユ、可愛いのか?」
「……アユ……」
 下げていた目を上げ、渡海は呆れた顔を瑛二に向けた。
 瑛二は愛称を勝手に作るやつだったことを思い出し、ため息の一つもつきたくなった。が、気を取り直し返事する。

愛称呼びは瑛二の専売特許。自分の恋人をアユ呼ばわりされた渡海が絶句するシーンw


➈理由

「マサ。さっきは茶化しちまったが、一個言っとく。たとえ俺が誰を縛ってたとしても、受け手が俺以外の奴と目を合わせたまま酔ったとしたら、誰であっても腹が立つ。そこで怒ったお前は正しい」
 渡海は目を見開いた。
「心配すんな。誰がなんと言おうと、お前はちゃんと緊縛師だよ」
 縄を握ったのも、緊縛師となったのも、全てルイが関わっていた。
 だからなりたくてなったわけではない緊縛師という仕事に対し、向き合えていなかったことは否定しない。
 しかし、緊縛師として歩んできた道に後悔はしていない。ルイが関わっているが、全て自分が決めてきたことだから。
 それを瑛二に認めてもらえた気がして、気持ちが楽になった。

思いがけず、フランクフルトで苛立った理由が分かった渡海。

このエピソードは、実はわたしがお話を伺った緊縛師さんがなにかのインタビューで答えていたのを見て作ったものでした。プライドの問題なんです。


明日は西条さんの自萌え語りとなります。きっと西条さんも渡海のDTをいれてくるはずだw


これまでの感想など、お待ちしております♡

※特に西条さんは感想貰うと「うはああああ」といって、小話投下するかもしれないよ・・・


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谷崎文音拝